〜あの時走っていた馬のこと〜
Updated: 2 January,2005

引退馬の馬房
≪馬たちのその後≫
 
 毎年、春と夏に北海道に行く。行き先はこの数年間、全くと言っていいほど同じである。春は生まれたばかりのとねっこ達を眺めながら、夏は少し大きくなったの彼らがこれからの旅立ちが幸せなものになりますようにと願いながら、海岸沿いに千歳から浦河まで向かう。「北海道にはもっと見るところがあるのに」とよく言われるが、私にとっての北海道はこの馬達に会える場所なのだ。
 
 旅の目的の一つは、引退して第2の人生を過ごしている馬達に会うことである。大きなスタリオンステーションやスタッドで、現役時さながらのピカピカした馬体を誇らしげに見せながら、悠々と生活しているお父さん達や、連れて帰りたくなるほど可愛い仔馬と、寄り添うように歩いているお母さん達を見ると、『よかったね。幸せなんだ。』とほっとした気持ちになる。そしてその一方で、自分が余生を過ごす場所を必死で求めながら、生きている馬達のことを思わずにはいられなくなる。
 
 1年間に引退する競走馬は数え切れないほどで、何の心配も無い生活が準備されているのは、その中でもトップホースと呼ばれた馬達だけであろう。何かの本で「引退した馬の行方を追ってはいけない。」というのを読んだことがある。それは、あまりに悲しい現実を知ってつらい思いをするからだそうだ。あの時走っていたあの馬が、夢や感動を与えてくれたあの馬が、不幸な余生を送っているのを知るのは悲し過ぎるからだと。
 
 人気を博した馬達でさえ、繁殖の仕事を終えた後、自分の最後の住処を見つけるのは大変なのだと、青森から出た数少ないGIホースであるグリーングラスのことを通して思い知らされた。幸い彼は本当に素晴らしい方たちに巡り合い、沢山の人に愛されて最期の時を迎えることが出来た。それでも、その安住の地を見つけるまで、彼は幾たび悲しい思いをしたのだろう。埋葬する際、頭を故郷である青森の方角に向けてくださったという記事を新聞で見たとき、涙が止まらなかった。
 
 グリーングラスの件以来、私は『引退馬の余生』について真剣に考えるようになった。インターネットや本を通して、引退した馬たちがどのような余生を過ごしているのかを知るにつけ、胸が痛くなることが何度となくあった。そんな中、種牡馬の仕事を終えたナイスネイチャのことを知った。JRAきっての人気者だった彼が、母であるウラカワミユキやクリスタルC優勝馬であり、同郷のセントミサイルと一緒に生まれ故郷で幸せに暮らしていることを。
 
 
≪イグレット軽種馬フォスターペアレントの会≫
 
ナイスネイチャが現役だった頃は、まだそれほど真剣にレースを見ていたわけではなかったが、それでも『有馬記念3年連続3着』という輝かしい(珍)記録を残した馬であることは知っていた。その彼は今、種牡馬という第2の仕事を終え、『フォスターホース』という新たな役目を得て、生産牧場である絵笛の渡辺牧場で暮らしている。『フォスターホース』とはフォスターペアレントと呼ばれる会員が会費を出すことで馬をサポートするシステムで、この制度を採用し、ナイスネイチャをはじめ7頭(北海道に3頭と千葉に4頭を繋養)の馬達の余生を支えているのが『イグレット軽種馬フォスターペアレントの会』である。
 
馬達に幸せに暮らしてほしい。しかし、一人の人間が1頭の馬を自分だけで支えていくのは、よほどのことがなければ不可能である。ずっと「何かをしたい」と考えていながらも、何もできずにいた私には、この『フォスターペアレントの会』が本当に救いの手に思えた。まして、サポートできるのがあのナイスネイチャやそのお母さん達である。この会のことを知って、私はすぐに会員に申し込んだ。
 
会員にはフォスターホースと直に触れ合えるという特典がある。私も早速3年前の5月と8月に渡辺牧場さんに伺って、ナイスネイチャ、ウラカワミユキ、セントミサイルの3頭と楽しい時間を過ごさせていただいた。ナイスネイチャ達が私の手からニンジンを食べてくれたときの嬉しさは、言葉では到底表すことができないほどだった。私のような「ごく普通」の彼らのファンでさえ、これだけの喜びを感じるのだから、ずっと彼を見続けてきたファンの方なら、天にも昇る想いだろう。また、渡辺さんご夫妻と馬のことについて話せるのも本当に勉強になった。お二人がどれだけの深い愛情を持って彼らを包んで下さっているかを知るだけで、胸が熱くなるような気がした。
 
奥様のはるみさんが『馬の瞳を見つめて』という本を発売された。この本には、愛知県で育ったはるみさんが遠く離れた北海道の牧場に嫁がれた経緯や、牧場生活にある感動・喜び・悲しみ、また生産馬達の生き様や死に様がたくさん書き綴られている。多くの方にこの本を読んでもらい、馬の命の重みを感じていただきたい。そして、できることなら、ナイスネイチャ達のフォスターペアレントとして、好きな馬の余生を支える活動に協力をお願いしたい。
 
馬好きな人たちの想いが一つになり、彼らの幸せな余生を支える活動の輪が広がったらどんなにいいか。1頭でも多くの『あの時走っていた馬』の幸せのため、自分にできることを一つ一つしていきたいと考えている。
 
無事に仕事を終えた馬たちが、みな自分の家に帰れるように。命の限りに頑張りながら、家に戻れなかった馬たちの分まで幸せに暮らせるように祈りつつ...。



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★『イグレット軽種馬フォスターペアレントの会』については、発足の経緯や会の趣旨を正しくご理解いただきたいので、ぜひ会のHPをご覧下さい。
ネイチャ達のファンの方、どうぞよろしくおねがいいたします!
なお、FHとFPのふれあいの様子は「見学牧場の馬房1」をご覧下さいm(_ _)m。
 
 
★渡辺はるみさんの本『馬の瞳を見つめて』についてはぜひこちらをご覧下さい!

suzukalove51@hotmail.comメールはこちらまで。

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